酸棗仁湯エキス顆粒の慢性蕁麻疹治療例32例の検討


2000年3月5日(日) 日本東洋医学会東海支部静岡県部会学術講演会で講演しました。



始めに


慢性蕁麻疹は難治でしばしば治療に悩まされます。
私は慢性蕁麻疹に対しては蕁麻疹反応を抑制する抗ヒスタミン剤あるいは抗アレルギー剤を使用し気長に漸減法を行います。
漸減法施行に際して柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)などの漢方薬を併用することにより治癒率をアップしています。

慢性蕁麻疹の原因は不明ですが心身のストレスによって発症する心因性蕁麻疹が多いようです。
「心身が疲れ弱って眠れないもの」を効能・効果としている酸棗仁湯(さんそうにんとう)に注目しました。
この度不眠症及び神経症に使われる酸棗仁湯を併用して治癒に到った例を経験しましたのでまとめてみました。


酸棗仁湯のプロフィール


酸棗仁湯は後漢(ごかん)の張仲景(ちょうちゅうけい)著の「金匱要略(きんきようりゃく)」に記載されている古典的な処方です。
酸棗仁湯は心身が疲れ弱って眠れない場合と眠ってしまう場合の両方に効果のある強壮鎮静薬とされています。
不眠症・嗜眠症のほかに神経症および自律神経失調症などにも応用されます。

矢数道明氏の「漢方処方解説」によると生薬組成は
酸棗仁15.0、知母・川キュウ各3.0、茯苓5.0、甘草1.0と記載され、酸棗仁は半分ぐらいに減量してもよいとしています。

保険漢方薬には3品あります。

オースギ酸棗仁湯エキスG

組成:酸棗仁15g、知母・川キュウ各3g、茯苓5g、甘草1g

ツムラ酸棗仁湯エキス顆粒(医療用)とマツウラ酸棗仁湯エキス顆粒

組成:酸棗仁10g、知母・川キュウ各3g、茯苓5g、甘草1g

酸棗仁湯の薬理作用


酸棗仁湯の組成生薬

サンソウニン、チモ、センキュウ、ブクリョウ、カンゾウ。

漢方的薬理作用

安神作用:サンソウニン、ブクリョウ。
理気作用:センキュウ。
清熱作用:チモ、カンゾウ。
利水作用:ブクリョウ。

西洋的薬理作用

鎮静作用:サンソウニン、センキュウ。
抗ストレス作用:サンソウニン。
利尿作用:ブクリョウ。
抗菌作用:チモ。
抗炎症作用:カンゾウ。

以上の薬理作用からストレス性心因性の慢性蕁麻疹に応用出来る処方と考えました。

慢性蕁麻疹におけるオースギ酸棗仁湯エキスGの治療結果


オースギ酸棗仁湯エキスGを慢性蕁麻疹の治療で西洋薬に併用した32例を検討してみました。
治療結果の有効例が81%でした。

酸棗仁湯の使用例 例数(人)
治癒した症例 18 56
治療中で経過良好の症例 25
*治療を中断した症例 19
合計 32 100

*他の漢方薬に変更した例4例(マツウラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒3例、テイコク十味敗毒湯エキス顆粒1例)
  漢方薬を中止した例2例(不味くて飲めない1例、眠気1例)

慢性蕁麻疹年令別・性別内訳

年令では20代と30代に多く、性別の差はありませんでした。

年代/性別 男性(人) 女性(人) 合計(人)
10才代
20才代
30才代 12
40才代
50才代
60才代
合計 14 18 32


最年少15才男性、最年長が69才男性。


治癒例18例の治療開始時の発病からの経過期間

治癒例の約7割は発症から3か月未満に受診されていました。

発病からの経過期間 症例(人)
1か月未満 38.9
1か月以上3か月未満 27.8
3か月以上6か月未満 16.7
6か月以上1年未満 5.6
1年以上 11.1
合計 18 100


発病からの経過の最長は2年前でした。

治癒例18例の治療に要した期間

治癒例の約6割は3か月以内で治癒しています。

治療に要した期間 例数(人)
1か月以内 44.4
3か月以内 11.1
6か月以内 5.6
1年以内 11.1
それ以上 27.8
合計 18 100


最長が3年2か月を要しました。
1年を超えるケースが3割もあることから諦めないことが肝要です。

5例の中から2例を紹介します。

症例T


O.A 23才 女性 初診1996年12月28日

発病1週間目で受診されましたが治療に抵抗して慢性化し治癒まで1年3か月を要した症例です。

受診日 内用処方1日分(投薬日数) 蕁麻疹反応
1996年12月28日 シュウビトル1mg1錠1日2回、KTSインチン五苓散エキス顆粒6g(9日+7日) 出ない
1997年1月17日 シュウビトル1mg1錠、KTSインチン五苓散エキス顆粒6g(7日) 出ない
1997年1月24日 シュウビトル1mg1錠1日休薬、KTSインチン五苓散エキス顆粒6g(7日) 出る
1997年1月31日 シュウビトル1mg1錠、KTSインチン五苓散エキス顆粒6g(14日) 少し出る
1997年2月14日 シュウビトル1mg1錠、マツウラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒4g(14日×3) 少し出る
1997年3月26日 ジスロン錠10mg1錠1日3回、マツウラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒4g(14日) 出ない
1997年4月9日 ジスロン錠10mg1錠1日2回、マツウラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒4g(14日) 出ない
1997年4月23日 ジスロン錠10mg1錠、マツウラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒4g(14日) 出ない
1997年5月7日 ジスロン錠10mg1錠1日休薬、マツウラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒4g(14日) 出ない
1997年5月21日 ジスロン錠10mg1錠2日休薬、マツウラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒4g(14日) 出ない
1997年6月18日 ジスロン錠10mg1錠3日休薬、マツウラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒4g(14日) 出る
1997年7月30日 ジスロン錠10mg1錠2日休薬、マツウラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒4g(14日) 出ない
1997年8月13日 ジスロン錠10mg1錠3日休薬、マツウラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒4g(14日) 出る
1997年9月10日 ジスロン錠10mg1錠2日休薬、マツウラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒4g(14日) 出ない
1997年10月8日 ジスロン錠10mg1錠2日休薬、マツウラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒4g(14日) 少し出る
#1997年10月21日 ジスロン錠10mg1錠2日休薬、オースギ酸棗仁湯エキスG4g(14日×2) 出ない
1997年11月19日 ジスロン錠10mg1錠3日休薬、オースギ酸棗仁湯エキスG4g(14日) 出ない
1997年12月3日 ジスロン錠10mg1錠4日休薬、オースギ酸棗仁湯エキスG4g(14日) 出る
1997年12月17日 ジスロン錠10mg1錠3日休薬、オースギ酸棗仁湯エキスG4g(14日×2) 出ない
1998年1月6日 ジスロン錠10mg1錠4日休薬、オースギ酸棗仁湯エキスG4g(14日) 出ない
1998年1月21日 ジスロン錠10mg1錠5日休薬、オースギ酸棗仁湯エキスG4g(14日×2) 出ない
1998年2月20日 ジスロン錠10mg1錠6日休薬、オースギ酸棗仁湯エキスG4g(14日) 出ない
1998年3月6日 オースギ酸棗仁湯エキスG4g(14日)、終了を告知 出ない
1998年9月22日 別の皮膚病で受診の時に蕁麻疹の完治を確認した。

漢方薬は1日2回食前で服用させています。
#、オースギ酸棗仁湯エキスGの併用を開始した。
シュウビトル錠1mg(陽進堂)は塩酸アゼラスチン錠で先発品アゼプチン錠1mg(エーザイ)のGE(後発品)です。
ジスロン錠10mg(ナガセ)は塩酸ヒドロキシジン錠でアタラックス錠10mg(ファイザー)と同じです。


症例U


K.H 34才 女性 初診1996年11月26日

発病後6か月経過して受診された症例で治療開始から1年7か月を要しました。

受診日 内用処方1日分(投薬日数) 蕁麻疹反応
1996年11月26日 ピロラール錠1mg1錠1日2回、マツウラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒4g(7日+14日) 出ない
1996年12月18日 ピロラール錠1mg1錠、マツウラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒4g(7日) 出る
1996年12月21日 ピロラール錠1mg1錠1日2回、マツウラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒4g(18日) 出ない
1997年1月8日 ピロラール錠1mg1錠、マツウラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒4g(14日) 出る
1997年1月17日 ピロラール錠1mg1錠1日2回、マツウラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒4g(14日×5) 少し出る
1997年3月28日 ジスロン錠10mg1錠1日2回、マツウラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒4g(7日+14日) 出ない
1997年4月18日 ジスロン錠10mg1錠、マツウラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒4g(14日) 出ない
1997年5月2日 ジスロン錠10mg1錠1日休薬、マツウラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒4g(14日) 少し出る
1997年5月27日 ジスロン錠10mg1錠、マツウラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒4g(14日×6) 出ない
1997年8月26日 ジスロン錠10mg1錠1日休薬、マツウラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒4g(14日) 出ない
1997年9月8日 ジスロン錠10mg1錠2日休薬、マツウラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒4g(14日) 出る
1997年9月24日 ジスロン錠10mg1錠1日休薬、マツウラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒4g(14日×3) 出ない
1997年11月4日 ジスロン錠10mg1錠2日休薬、マツウラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒4g(14日×2) 出ない
1997年12月16日 ジスロン錠10mg1錠3日休薬、マツウラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒4g(14日) 出る
1997年12月22日 ジスロン錠10mg1錠2日休薬、マツウラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒4g(14日×2) 少し出る
#1998年1月20日 ジスロン錠10mg1錠2日休薬、オースギ酸棗仁湯エキスG4g(14日×2) 出ない
1998年2月17日 ジスロン錠10mg1錠3日休薬、オースギ酸棗仁湯エキスG4g(14日×3) 出ない
1998年3月30日 ジスロン錠10mg1錠4日休薬、オースギ酸棗仁湯エキスG4g(14日) 出ない
1998年4月15日 ジスロン錠10mg1錠5日休薬、オースギ酸棗仁湯エキスG4g(14日×2) 出ない
1998年5月11日 ジスロン錠10mg1錠6日休薬、オースギ酸棗仁湯エキスG4g(14日) 出ない
1998年5月25日 オースギ酸棗仁湯エキスG4g(14日) 出ない
1998年6月8日 治癒とする。その後再発はない。

漢方薬は1日2回食前で服用させています。
#オースギ酸棗仁湯エキスGの併用を開始した。
ピロラール錠1mg(日本化薬)はフマル酸クレマスチン錠で先発品タベジール錠1mgのGE(後発品)です。
ジスロン錠10mg(ナガセ)は塩酸ヒドロキシジン錠でアタラックス錠10mg(ファイザー)と同じです。


まとめ


(1)慢性蕁麻疹に対する酸棗仁湯の有効例は81%でした。

(2)治癒例18例の中に1年を超えて治癒した症例が5例もあったことは喜ばしいことです。

(3)慢性蕁麻疹の治療に難渋した時の選択肢として酸棗仁湯を併用してみることを推奨します。

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